代表取締役社長 矢浪 興造 (やなみ こうぞう)
株式会社プリント電子研究所に入社して
元々は金融関係の民間企業で働いていて、その仕事自体自分は好きでずっとやり続けたいと感じていました。けど、ある日、別部署への異動の内示が出たタイミングでやめることを決意したのが入社のきっかけですね。その後半年たたないうちに東日本大震災が発生して、当社の工場は福島第一原発が30km圏内だったため、従業員も一時避難したこともあり一時休業になってしまいました。工場が稼働できず、従業員も避難したことを考えれば、入社することは必然だったと感じています。たとえ震災前に前の会社を退社していなくても、震災が発生した後にはきっと入社することになっていたのではないかと。
震災後に工場の稼働が始まった当初は原発の影響もあり人員が足りず長時間の稼働も困難だったため、注文をいただけるのはありがたいことなのですが、工場内で生産するのは苦労の連続でした。入社して1年経たない中でその多くを自分が担う必要があって、あらゆる工程をこなさなければ回らない状態でした。たくさんの失敗もしてしまいましたし、お客様に叱責もされましたが、そのおかげで得たものが大きいと思っています。人並み以上に勉強する必要に迫られ、社内の使用設備や材料、運用ルールなど細かい部分まで知ることができました(というか知るしか方法がなかったという)。今はお客様とお話をする上で自社でできることを深く知っているというのは大きなアドバンテージとなっていて、それが今に役立っています。
仕事を通じて得た経験や気付き
この仕事をするようになって思うのは論理的であること、合理的であることがすごく重要であると感じました。以前の会社は金融関係で営業や内勤をしていたので、良い意味でも悪い意味でも人と人との関係性の中で仕事を進められたというか、問題が発生してもある程度感情論的な観点で問題解決されていたと感じます。
ですがものをつくるという行為はそうではなくて、すべて論理的で合理的に造られていることから、何となくとか漠然としていたりということは基本的に排除することを求められるじゃないですか。作業するにも理由や根拠を持った中で決められた通りに行うし、問題が発生した時もなぜそうなったのかを論理的に考えて解決策を導いていきますよね。また、生産性という観点が重要になることから無駄なことをできる限り排除して、生産性アップやコストの削減といった付加価値を高めるための合理的な考え方が必要ですよね。だから製造業という業種に触れてそこはすごく勉強になったと思います。製造業だけでなく、そもそも仕事をする上で論理性や合理性は必要であり、感情論的なことだけでは物事はうまくいかないんだろうって。論理性・合理性を前提とした上で感情を上乗せしていくことで、さらなるシナジー効果を高めることができるだろうし、より人間関係を加味した上での解決策が見つかるのだろうと感じています。
どのような会社にしたいですか
従業員が親しい人に紹介したくなる会社、入社を勧めたくなるような会社がいいですね。入社を勧めるからには本人が満足している必要があり、それをさらに親しい人・大切な人に紹介するわけですから、さらにハードルが高いはずです。なので、それだけのハードルを越えられるくらいの会社にしたいと思っています。私自身、経営者になって「日本で大切にしたい会社」という本を読んだのですが、その中に紹介されている会社は決まって従業員を大切にしています。従業員を大切にすることでモチベーションが上がり、雰囲気も良くなり、個々も成長していく。その上で最終的に業績も上がるということで、「〇期連続黒字」なんて触れ込みもざらですね。従業員を大切にすることと甘やかすことは違うのでその線引きはしながら、お互いを尊敬しつつ切磋琢磨して成長しいけるような会社にしていきたいです。
今後について
私自身、東日本大震災という未曽有の災害による変化も経験しましたが、コロナ禍の数年での変化というのはその比でなく、震災後10年経った後の変化より大きく変わったと感じています。また、コロナ禍で思い知らされたのはインフラやデジタル化、医療体制など日本という国が必ずしもトップクラスでも最先端でもないということです。今日本も少しずつ変わってきており、グローバルな社会に向けて舵を切るところではありますが、これからは日本国内での競争だけでなく、世界中の人材、それに加えてロボットやAI等競争相手が変わってきています。会社だけではなく、個人としてもこの流れに向かって勝っていく必要があると考えています。
さて今後の当社としての姿勢はお客様の要望に応え続け、お客様を「ファン化」していただくということを進めていきます。製造業というと価格面の差で受注が決定されるという場合が多いですが、中小企業にとっての価格というのは体力のない中小企業では対抗しにくい。そのためその土俵で戦うことは好ましくなく、先はなかなか遠い。だから同じ土俵ではなく、当社に聞けば何とかしてくれる、アドバイスをくれる、きっかけをくれる等々、価格だけではなく提案力・創造力や小回りなど大企業にはできない部分でお客様に選ばれる企業を目指そうと。お客様の要望の中には従来の方法では解決できない問題もたくさんあります。そのためそのような依頼に対して工夫を凝らしながら、クリアしていくことでファン化していただくことに繋がると考えています。プリント基板製造業という枠組みの中でこれまでやっていましたが、この枠組みにとらわれず、今使用している設備、使用材料、工法など別の製品や加工に転換できることもたくさんあります。それが何かを考えて、プリント基板という枠組みを超え、別の形も含めて変化していきたいと思います。